「また兄貴が来てたのかよ」
ユウトは灰皿を見ながらそう言った。とげの含まれた言葉に、わたしはむっとして言い返す。
「来てたけど、それがどうかしたの」
「お前の兄貴は遊びに来すぎなんだよ。俺よりもお前に会ってんじゃねえの」
「きょうだいだし、会ったっていいじゃない」
「普通の女子大生ってのは毎日のように自分の部屋で兄貴と会うのか?」
ユウトは私に背を向け、灰皿の中身をゴミ箱にあけた。そして、私の顔をのぞき込むと、ひどく悲しそうに尋ねた。
「……もしかして、兄貴じゃなくて他の男じゃ」
思いがけないせりふ。怒りを通り越してなんだか笑えてきた。
「違う。わたしはそんなに信用されてないの」
「笑うなよ。浮気は、してないよな。……答えてくれ」
ユウトの眼は揺らがない。これは重症だと思ったが口には出さず、他の言葉を口にした。
「もう終わりだね。別れよう」
ユウトが出て行ってどれくらい経っただろう。玄関のチャイムが鳴り、見慣れた顔がのぞく。
「お前、なにぼーっとしてんの」
「お兄ちゃん」
兄はいつものように、勝手知ったる、といった風に部屋へ上がり込んできた。灰皿を見て、にやりと笑う。
「彼氏が来てたのか」
「ううん。……ただの友達」
わたしは兄のとなりに座り、胸ポケットからたばこの箱を取り出した。一本取りだし、兄に手渡す。
「わたしが好きなのは、このたばこを吸う人だけ」
兄が私を抱きしめる。ふわりとたばこの匂いがした。
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